インターネットの次世代空間といわれ、世界中から注目を集めているメタバース。現在はどのように使用されているのか、また、美容医療の業界において今後どのような広がりをみせる可能性があるのかについて、自由が丘クリニック理事長の古山登隆先生に伺いました。
監修・取材協力:古山 登隆 先生(医療法人社団 喜美会 自由が丘クリニック 理事長)
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インターネットの次世代空間といわれ、世界中から注目を集めているメタバース。現在はどのように使用されているのか、また、美容医療の業界において今後どのような広がりをみせる可能性があるのかについて、自由が丘クリニック理事長の古山登隆先生に伺いました。
監修・取材協力:古山 登隆 先生(医療法人社団 喜美会 自由が丘クリニック 理事長)
メタバースとは、「Meta(超越)」と「Universe(宇宙・世界)」を組み合わせた造語のこと。何をもってメタバースとするのか、その定義はさまざまですが、一般的にはコンピュータネットワーク上の3次元の仮想空間(または仮想空間を活用したサービス)を指すことが多いです。
今、メタバースへの注目が世界中で集まりつつあります。Googleで「メタバース」と検索された数は、2020年11月~2021年10月までの12ヶ月間で、世界全体で約5倍に増加。Microsoft社やEpic Games社などの世界的なテクノロジーやゲーム会社がこの分野に数十億ドルの投資を発表し、旧Facebook社は社名を「Meta」に変更するといった動きもあります。
また、テレビ番組で取り上げられたり、専用機器を使わずにスマートフォンからアクセスできる空間も増えたりなど、メタバースは私たちの生活にも徐々に浸透しています。
医療分野でも、メタバースを利用した取り組みが増えつつあります。
例えば、メタバースを利用した医療相談で悩みを聞いたり、受診前相談を受けたりといった、医療行為の前段階として利用されるケースはすでに出てきています。
そのほか、患者会などの交流会がメタバース上で開催されることもあります。入院中やリハビリ中などで移動が難しい患者さん同士、そして患者さんとその家族の交流にメタバースを使おうという計画が出るなど、コミュニケーションの場として利用を目指すケースが見られます。
コミュニケーションを主とした治療や患者さんのトレーニングを、メタバース上で行う動きもあります。うつ病治療の認知行動療法や、発達障害の方のソーシャルスキルトレーニング(社会適応や職場復帰のための訓練)などをVRサービスとして提供する企業もあるようです。
また、このようなVRを用いた医療行為は保健適応を目指そうとする動きも始まるなど、新しい流れが生まれているのが窺えます。
スキャンデータによる3Dモデリング技術やXR技術などを活用した、メタバース上での遠隔医療教育の実証実験も行われ始めています。メタバース上に患者さんの体をスキャンして作成した3Dデータをおき、それをVRゴーグルとコントローラーを用いて操作して、最先端の治療法のトレーニングをしたり、数が少なく珍しい症例の術式を学んだりするというものです。質疑応答やディスカッションなども含め、すべてメタバース上で行われており、今後はこうした動きが加速していくかもしれません。
メタバースは、美容医療の分野でも活用されていくことが期待されています。
例えば、すでに行われているいくつかの例のように、バーチャル空間で医師やカウンセラーと患者さんとが交流したり、受診前の相談をしたりすることは、美容医療の分野でも、患者さんと医療者の両方にメリットをもたらすと考えられます。
特にメリットとなるのが、アバターの存在です。メタバースでは、利用者同士はアバターと呼ばれる、自分の分身のようなキャラクターを使います。アバターを使うことで、リアルでは伝えにくいことも素直に言葉にしやすくなるため、コミュニケーションが進み、スムーズなカウンセリングにつながると大いに期待されています。
将来的には、施術情報の提供だけでなく、独自のデジタルクローンをメタバース上にアップロードして、施術の結果をよりリアルに体験できるような日がくるかもしれません。
メタバースでの会議や集まりは、VRゴーグルなどを用いることで周囲の雑音や情報が遮断されるため、メタバース上の出来事に集中できて、従来のオンライン会議よりも充実したコミュニケーションを図りやすいといわれています。
このように、実際には別々の場所にいても、まるで同じ部屋にいるかのように会話をしたり、体験を共有できたりできるのは、メタバースの大きな特徴です。
今後はメタバースを通じて、美容医療に携わる医療従事者が世界中で密なコミュニケーションがはかれるようにもなり、医療技術の進歩のスピードがもっと早くなる可能性も考えられます。
メタバースとは直接関係ありませんが、例えば、メタバース上で施術を予約し、その支払いを暗号通貨で……というように、新しい支払い手段が採用されることもあるでしょう。実際、海外では、すでにこのような支払い方法が可能なクリニックもあるそうです。
そのほか、まったく新しい予約ツールができるなど、メタバースと関連した新しいツールが生まれたり、使われるようになったりすることも期待できます。
美容医療におけるメタバースの活用について、古山先生にお話を伺いました。
「現在のメタバースは進行途中で、これが実際の美容医療に応用できるようになるには、まだまだ時間がかかるだろうと思っています。
しかし、医師同士の会合や、ヒアルロン酸やボツリヌストキシン製剤の注入のトレーニングなど、すでにメタバース上で始めていることもいくつかあります。医師のトレーニングについては、今後もっと技術が進歩し、精度が上がってくれば、利用価値がさらに高まってくるでしょう。
また『ここにヒアルロン酸をこれくらい入れたら、こう変わってくる』といったリアルなシミュレーションができるようになると、患者さんへのカウンセリングにも生かせるようになるかもしれません」
今後の進歩への期待ついても伺ってみました。
「あと医師と患者さん、または患者さん同士でのコミュニケーションの場としては、メタバースは有用だと考えています。アバターを使うことで互いに本音が言いやすくなるので、活発なコミュニケーションが今後メタバース上で行われていくことでしょう。
ただし、これらをどう利用するのかは結局のところ、各医師の裁量にかかっていると私は思います。技術がどれだけ進歩しようと、美しさと患者さんの個性とをどう兼ね備えてゴールを設定していくかが重要ということは、メタバースにおいても変わらないのではないでしょうか。
技術の進歩だけでなく、医師がそれをどう使いこなせるかも重要なポイントといえるでしょう。」
これから先、デジタルとリアルな世界の間を自由に行き来する時代がくるかもしれません。ゲームなどの分野ではすでに、メタバースへの進出がどんどん進んでいるように、美容医療の分野でもメタバースの活用は必須になってくるでしょう。
そのための技術の準備はすでに整っています。今後、美容医療の分野ではそうした動きがどのように広がっていくのか、ぜひ注目していきましょう。
参考文献
「THE FUTURE OF AESTHETICS」February 2022 - Allergan Aesthetics an AbbVie company
医学博士。北里大学医学部卒業。同大学チーフレジデント、外科研究員、形成外科講師を経て、1995 年自由が丘クリニックを開設。国立大学法人千葉大学 医学部形成外科 非常勤講師などを務める。日本形成外科学会認定形成外科専門医。ヒアルロン酸やボツリヌストキシン製剤の注入、糸リフト、レーザーなどを組み合わせた、メスを使わずにより美しくなるためのケアを主に行う。
医療法⼈社団 喜美会 ⾃由が丘クリニック
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