TikTok、Instagramといったソーシャルメディアの普及により、写真加工アプリを使うのはいまや当たり前となりつつあります。また、加工アプリを使うことで、それらを通して映る自分と現実の自分とのギャップを感じる人が増えることも。
そこで、本記事ではソーシャルメディア時代の美を巡る問題について20~30代の男女約800人にアンケート※を実施。加工アプリが「理想の顔」にどのような影響を与えているのか調査しました。さらに、美容医療の現場で実際にあった事例などもご紹介します。
監修:古山 登隆 先生(医療法人社団 喜美会 自由が丘クリニック 理事長)
ソーシャルメディアの普及により、自撮りした写真をシェアする機会が増えましたが、実際にどれくらい加工しているのでしょうか。アンケート調査※で調べたところ、加工アプリを使う割合はほぼ半数であるものの、頻繁には使っていないことがわかりました。
一方でSNSで見かける友人や知人の写真などに本人とのギャップを感じた人は6割以上もいました。また、モデルやインフルエンサーなどの写真を見て、顔を加工していると感じた人は7割以上。この結果から「SNS上では加工された写真が多い」と認識している様子がうかがえます。
一方で、同じアンケート調査※では3人に1人以上が、モデルやインフルエンサーが写真を加工しているとわかっていても、その顔に憧れたことがあることが判明しました。
実際、加工されたインフルエンサーなどの写真を見せて、その姿に「なりたい」と美容クリニックを訪れる患者さんは増えているそう。なかには、補正された写真を「自然で美しいフェイスラインだ」と感じている患者さんもおり、医師が「加工アプリによって補正されたもので、自然ではありません」と誤解を解くケースもあるそうです。
上記のような変化は、新しい時代の流れとして受け入れられる一方、不安もあります。加工された写真によって、現実の美的感覚にくるいが生じる可能性があるからです。
実際、2021年に英国のメンタルヘルス財団、化粧品開業医合同評議会、および英国美容評議会が共同で発行した、美容整形に関する新しいガイダンスでは、若年層の画像加工の影響について注目しています。
ガイダンスでは「ソーシャルメディアの画像は、完璧に見せるためのフィルターで加工・補正されている」ことに触れ、非現実的な画像を、自分の理想の身体に当てはめないよう注意喚起がされています。
写真加工アプリについて、ブラジルで行われた21~35歳の若者127名を対象にした調査では、美容医療を受けようと思った最大の動機は、「自分の写真を見て気になったから」であることが明らかになりました。
今回行ったアンケート調査※でも3人に1人以上は加工アプリで補正した自分の顔になりたいと感じていました。加工アプリが美意識に与える影響は、決して少なくないことがわかります。
では、加工されていない写真で自分の顔を見て、どのパーツや肌悩みが気になったのでしょうか。
アンケート調査※では写真に映る自分の顔を見て感じた悩みのTOP3は「肌荒れ」「シミ、ほくろ、そばかす」「ほうれい線」でした。
顔立ちやパーツの形・大きさよりも肌悩み、特に加齢によるしわやシミを気にする人が多いようです。普段から鏡で自分の顔を見ているものの、写真で見ると改めて気付くのかもしれません。
写真加工アプリと現実との美意識のギャップとして、アラガン・エステティックの調査レポート「THE FUTURE OF AESTHETICS」February 2022によると、ある美容外科医は患者さんからInstagramの写真を見せられ、「写真の子のように、毛穴を消してほしい」と相談されたそうです。医師が「これは加工アプリの補正によるものであり、毛穴はあるのが当たり前」と伝えたところ、患者さんは説明を聞いてショックを受けたそうです。
こうしたケースについて、古山先生はこのように話します。
「長く美容医療に携わっていると、びっくりするような相談を受けた経験は少なくありません。過去には顔の設計図を持参した患者さんもいました。 私たち美容医療に携わるものとしては、患者さんからの要望に驚きつつも、『そうなりたい』と考える人が増えていて、なおかつ医療的に危険なことでないのであれば、リクエストに応えるような技術を開発していくことも必要だと感じています。『毛穴を消したい』という例は、たしかに今は突飛に聞こえるかもしれません。でもこれが、今後の技術革新のヒントになることも、なかにはあるのです」
一方で、あえて今、加工していない、ありのままの写真をシェアするインフルエンサーもいます。例えば美容の分野では、ニキビがあることを隠さずに画像投稿をしているインフルエンサーが増えており、フォロワーを増やしています。
加工アプリで自分の好きなように加工ができて、理想の自分になれる時代だからこそ、ありのままの自分を見せても平気という意識が生まれているのかもしれません。
古山先生は、加工した顔とリアルな自分の美意識との差を埋めるのに、美容医療の専門家が一役買えることもあると話します。
「実は『美しい顔』にすることだけを考えて施術をすると、施術後の顔はほぼ同じになってしまいます。本来その人が持っていた個性がなくなり、美しくても、いわゆる『量産型』のような顔になってしまいがちです。加工アプリで補正した顔が似た感じになるのも、同じような理由でしょう。しかし、正しい知識と豊富な経験を持つ医師ならば、それぞれの患者さんが持つ魅力を客観的かつ的確に伝えつつ、さらに魅力を引き出せることがあります。加工アプリによって生まれる美とは違う、個々の人が持つ現実的な美のすばらしさを伝えられるはずです」
画像の加工技術が進化するにつれて、医師の役割は、これまで以上に必要とされるようになっていくと、古山先生は続けます。
「加工アプリで補正された同じような顔が世の中にあふれてくると今度は、今まであまり美しくないと考えられていたパーツや、自分が欠点だと思っていた部分が『個性』に変わり、うらやましがられる時代がくることも考えられます。
美のトレンドは、日々変わっていくものです。今はイヤだと思っている自分の顔や体が、いつの間にかポジティブに捉えられる可能性もあることを、ぜひ覚えておいていただきたいです」
加工アプリは、人々の美意識に少なからず影響を与えるようです。ただし、それに惑わされてばかりではないことが、今回の調査と先生への取材によって見えてきたかもしれません。
参考文献
「THE FUTURE OF AESTHETICS」February 2022 - Allergan Aesthetics an AbbVie company
※「加工アプリと理想の美に関するアンケート」調査概要
マイナビ調べ
・調査対象:20歳~39歳の男女 有効回答数806名
・調査期間:2022年10月3日~10月4日
・調査方法:WEBアンケート