シミに悩む女性の間で注目を集める、「トレチノイン」と「ハイドロキノン」。できてしまったシミを改善に導く効果や高い美白作用が得られることなどで話題ですが、間違った使い方をしてしまうと肌の状態が悪くなってしまう場合もあります。まずは成分の効果や使い方を正しく理解しましょう。
今回は、野本真由美クリニック銀座 院長 野本真由美先生に、トレチノインとハイドロキノンについて詳しく解説していただきました。
トレチノインは医療機関でのみ扱える医薬品です。ビタミンAの1種で、ニキビやしわの治療医薬品としてアメリカのFDA(日本の厚生労働省にあたる機関)に認可されています。
トレチノインには肌の生まれ変わりである「ターンオーバー」を促進する働きがあるので、シミに対してはシミのもとになっているメラニン色素の排出を促し、シミを薄くする効果が期待できます。
その他にも、コラーゲン生成作用でしわを改善する効果や、皮脂腺の機能を低下させて角質を剥がす作用でニキビ・ニキビ跡を改善に導く効果などが期待されています。
ターンオーバーは若い頃は約28日周期で表皮が生まれ変わりますが、加齢とともにその周期は遅れ、30代~40代では平均して45日程度かかるといわれています。
それに対してトレチノインは、表皮の細胞を分裂・増殖させてターンオーバーを活性化させる働きがあり、肌の奥にある基底層のメラニン色素を約14日間で外に排出することできます。
ハイドロキノンはシミ・くすみに対して高い美白作用が確認されており「新しくシミができるのを防ぐ」「すでにできているシミを薄くする」という2つの効果が期待できる成分です。
ハイドロキノンの特徴は、「シミの原因であるメラニン色素の産生を抑える」ことができることと、メラニン色素をつくる「メラノサイトそのものを減少させる」こともできる点にあります。この2つの作用で新しくシミができるのを防ぐ効果が期待できます。
<ハイドロキノンが有効なシミ>
老人性色素斑/炎症性色素沈着/肝斑/そばかす
<ハイドロキノンでは効果がないもの>
ほくろ/アザ/ADM(後天性真皮メラノサイトーシス)
2つの併用は「トレチノイン・ハイドロキノン療法」と呼びます。ハイドロキノンだけを使用した治療は「肌のブリーチ(漂白)」と呼ばれ、「シミ」も「シミでない部位」も白くする作用はありますが、肌色が均一にならないことがあります。
一方で、トレチノイン・ハイドロキノン療法は、「シミ」と「シミではない部分」の差をできる限り作らないようにシミを目立たなくし、均一な肌色を作ります。
そのため、シミに対してはトレチノイン・ハイドロキノンの併用療法をお勧めします。
トレチノインは、レチノイド皮膚炎(A反応)と呼ばれる副作用が多くのケースでみられます。
などが代表的です。人によって反応の出かたには個人差はありますが、使用開始後6週間くらいの間に生じやすく、軽度であれば経過をみます。反応が強い場合は使用頻度を減らしたり、濃度を調節して対応します。
ハイドロキノンは細胞毒性を持つため、含有濃度が高いほど刺激も強く、赤みや痒み、ヒリヒリ感などの症状が起こりやすくなります。長期間使用すると皮膚の一部が白く抜ける「白斑」や、逆に皮膚が黒くなる「組織黒変症(Ochronosis)」を生じるリスクもあります。
効果的かつ安全にハイドロキノンを使うために、4~5カ月程度使用したら、その後は4~5か月程度休止するとよいでしょう。
治療開始数日後から古い角質が剥がれ落ちはじめます。この時期は古い角質が押し出されて肌が生まれ変わり始めているので、皮むけの他、ヒリヒリ感や赤みなどが出る場合があります。使用開始後6週間以内には落ち着いてくる場合がほとんどです。
<主な副作用>
皮むけ・赤み・乾燥・ヒリヒリ感・つっぱり感・痒み
しわが目立つ・角質の過敏性が亢進する
トレチノイン・ハイドロキノン療法は、信頼できる医師の診察と指導のもとに進めることが大切です。治療中は角質が敏感な状態になり、紫外線の影響を受けやすくなるので、十分な紫外線対策が必要です。
また、外用剤を皮膚に刷り込むように塗ることはシミの原因になります。皮膚の上で動かさずに、「押しづけ」するとよいでしょう。
美容は健康の上に成り立つのではなく、健康を追求した先にあるのが美容だと思います。
シミやニキビ、皮膚炎など皮膚の病気があるときは、その治療を行うこと自体が、皮膚を美しくします。美容治療だけでなく、毎日食べているもの や、毎日塗っているものが、皮膚を毎日作り替えています。外から、内から、「皮膚の健康」を追求していきましょう。